ツールを導入すべきか、選定時に何を重視すべきか
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顧客や調達先、委託先、採用候補、出資先など、社外を起点とするリスクは年々広がっています。反社会的勢力や贈収賄などの不正・不祥事だけでなく、経済制裁や輸出管理、懸念されるような風評、実質支配者の不透明さなどが重なり、取引先の実態について「知らなかった」では済まない局面が増えています。
このようなリスクに対応するためにコンプライアンスの観点から相手方を調査することを、一般的に「コンプライアンスチェック」と呼びます。本記事では、コンプライアンスチェックツールを導入すべきかどうか、また選定時に何を重視すべきかを整理します。
コンプライアンスチェックを実施する上で大切な2本柱
コンプライアンスチェックを実施するには、社内態勢の構築とチェック方法を整備する必要があります。どちらか一方だけでは正しくコンプライアンスチェックを実現することができません。
① 適切なコンプライアンスチェック態勢の構築
企業として対応すべき法規制や社会的責任、自社のビジネスに関係するリスクを正しく理解し、一貫した適切なプロセスで取引先のリスクを精査する仕組みを構築します。コンプライアンスチェックの結果もさることながら、コンプライアンスチェックのプロセスを重視し、各ステークホルダーに説明可能な状態にすることが重要です。
② さまざまな情報を駆使した取引判断
多様なリスクに対応するためには、さまざまな情報を駆使して、取引先のコンプライアンスリスクを判断する必要があります。
コンプライアンスチェックツールを使う場合と使わない場合のメリット・デメリット
取引先と新たに契約を締結する上で、事前のコンプライアンスチェックは欠かせませんが、契約後に、取引先の不正・不祥事が発覚することもあるため、継続的に取引先を監視していく必要があります。
おおまかなコンプライアンスチェックの流れは以下の通りです。
- 情報収集
- リスク評価
- 追加調査
- モニタリング
具体的にコンプライアンスチェックを実施しようとしたときに、情報収集やモニタリングの部分に着目すると、コンプライアンスチェックツールの有無によってメリット・デメリットが変わります。
① 自社で調査する(ツールを使わない)場合
コンプライアンスチェックツールを使わずに自社で調査をする場合は、比較的簡単に始めることはできるものの、調査対象の増加や調査する担当者の知識や調査方法により判断のぶれが起こりやすくなります。
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メリット
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 初期コストが低い | 小規模・件数が少ないうちは始めやすい |
| すぐに運用ができる | 稟議やツール操作方法の習得など導入準備が不要 |
| 柔軟に変更できる | 調査方法や情報の保存方法など社内事情に合わせた変更が可能 |
デメリット
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 収集できる情報に限界がある | 抜け漏れが起きやすく、情報の信頼性も不明瞭 |
| 属人的な判断 | 担当者の経験差で判断がぶれやすい |
| 同一性判定の誤り | 同姓同名・多言語・別名で見落としや誤判定が起きやすい |
| 記録・証跡が散らばりやすい | 後から判断根拠を説明しづらく、調査結果の保存も手間 |
| 継続的なモニタリングが大変 | 既存先の定期チェックが属人的・抜け漏れになりやすい |
| 対外説明が大変 | 判断根拠や調査時点の情報を示すための整理や説明資料の準備が必要 |
コンプライアンスチェックツールを使わず、自前でインターネット検索を行った場合、入手できる情報の信頼性や網羅性に課題が残ります。例えば、SNSやブログなど情報の真偽が判断できないものや、過去の新聞報道記事などインターネットでは探しにくい情報があります。
また、確認した情報や合理的な判断理由など「必要な記録の保存」も重要になるため、自前でインターネット検索を行う場合には、保存すべき証跡にはどのような情報が必要なのか、どのようなフォーマットにするのか、あらかじめ決めておく必要があります。
② コンプライアンスチェックツールを利用する場合
コンプライアンスチェックツールを利用する場合は、利用するサービスの選定や稟議、調査担当者への使い方の説明など導入時の手間はかかりますが、一度導入してしまえば担当者による属人的な調査を回避でき、調査対象が増えても簡単に運用することができます。
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メリット
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 情報の標準化 | 人によるばらつきを減らしやすい、得られる情報の信頼性が高い |
| 対外説明が強い | 検索条件・ヒット根拠・判断履歴などの証跡を残しやすい |
| 継続モニタリングが現実的 | 既存先の定期再チェックを仕組み化できる |
| 効率化 | 件数増加に耐えやすい(スケールする) |
デメリット
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 導入/運用設計 | 稟議、操作マニュアル、エスカレーション設計、権限など整備が必要 |
| ベンダー/データへの依存 | 更新頻度・範囲・説明可能性が弱いと逆にリスク |
| ノイズ対応の負担 | ヒットが多いだけだと現場が疲弊(ヒット条件の調整が必要) |
| “万能”ではない | 最終判断や例外判断は人が担う部分が残る |
コンプライアンスチェックツールを使えば、得られる情報の信頼性や網羅性が担当者によって変動しないので、抜け漏れしにくくなります。また、確認した情報や合理的な判断理由など「必要な記録」もコンプライアンスチェックツール内に保存することができるので、工数を削減することができます。
コンプライアンスチェックツール有無の比較表
| 観点 | コンプライアンスチェックツールなし | コンプライアンスチェックツールあり |
|---|---|---|
| 立ち上げ・コスト | 早い・安い | 稟議や運用ルール作成、操作説明など準備が必要・有償 |
| 収集できる情報や判断 | 属人化しやすい | 標準化しやすい |
| 説明責任 | 記録が散らばりがち | 証跡・ログが残しやすい |
| 継続監視 | 抜け漏れが出やすい | 定期モニタリングに強い |
| 件数増 | すぐに限界 | 1件あたりの調査工数を抑えられるので件数増にも対応できる |
コンプライアンスチェックツールを利用するべきか否か
重要なのは「どのようにコンプライアンスチェックを行い、そのチェックが適切であることを対外的に説明できるかどうか」を実現し、継続的な運用をしてゆくことです。
手作業では限界があるため、「コンプライアンスチェックツールを利用する」方が効率的です。
コンプライアンスチェックツール選定の基準
コンプライアンスチェックツールは何を基準に選ぶべきでしょうか。結論から言うと、「さまざまな情報を収集できるか」以上に、“なぜその判断になったか”を外部に説明できるか、が分水嶺になります。
コンプライアンスチェックの最終成果は、単なる“該当あり/なし”ではありません。
成果として求められているのは、「合理的な取引判断であることを対外的に証明できること」です。
規制当局対応・取引先説明・社内稟議で問われるのは、次の点です。
- どの情報源に基づき(一次情報/公的リスト/信頼できる報道等)
- いつの時点で(更新日・検索日・版数)
- どのような基準で判断したか(自社ルール・エスカレーション・追加調査)
- 証跡(検索条件・判断理由・承認記録)が残り
- 定期的にモニタリングができるか(変化するリスクの特定)
たとえばマネーロンダリングの観点では、金融庁ガイドラインで確認記録や取引記録が、規制当局へのデータ提出や判断の前提になる点が明示されています。 また海外に目を向けると、FATF(金融活動作業部会)も取引・顧客デューデリジェンス情報の記録保持を求めています。
つまり、ツールは「検索エンジン」ではなく、「説明責任を支える“業務インフラ”」であるべきです。
コンプライアンスツール選定のポイント
(1) 情報の信頼性
情報ソースや更新頻度、網羅性など、必要な情報が揃っているかを確認します。
- 情報源が明示されているか
- 情報の更新頻度が適切で、「いつの情報か」を示せるか
- どのようなリスクをカバーできるのか、どのようなリスク対象が収録されていることが明確であること
- フィルタリングでは「制裁リストが最新か」「同一性の判定が適切か」の検証がされているか
(2) 検知の品質
誤検知や見逃しがないか、また継続的に運用する場合には定期的なチェックも必要なため、長期で調査が可能な仕様になっているか確認します。
- 検索や照合に関するロジック(同名異人・別名表記・多言語・表記ゆれ)と、チューニング余地があるか
- 誤検知/見逃しを測る仕組みがあるか
- 継続運用でのリスクベースなモニタリングの運用ができるか
※注意するポイント
◯ AI要約・AIスコアが“判断理由”にはなりえません
規制当局や株主、取引先や金融機関などのステークホルダーから求められるのは、担当者任せではなく組織として対応し、法律に則して毅然と対応する姿勢です。AIによる注目度や情報の要約は有用なこともありますが、それだけでは「どの基準に照らした判断か」を説明するのが難しいです。
また、要約元の情報がインターネットやSNSに偏る場合、情報の信憑性が疑わしい場合も多く、その「インターネットやSNSにある真偽入り混じった情報を要約した情報」だけでは、合理的な判断と言い切ることは難しいかも知れません。
- AIの注目度や要約が“結論”になり、基準に照らした判断(どの規則等・どの区分)を証跡に書くことができない。
- 便利さゆえに原文確認が省略され、誤検知や見逃しの温床になる。
あくまで「AI要約は参考情報」と考え、判断理由は判断基準表の該当箇所を必ず記載+承認ログ+証跡を必須にすることが必要です。また、元情報の信頼性を重視したツールの選定も重要です。
◯ 効率化だけを求めない
「自動で記事を要約しノイズを削減します、簡単に工数を削減します」「独自データベースで判定が簡単にできます」などの特長は一見ノイズや工数が削減され、判定までしてくれるならとても良いように見えます。
では、ヒット数削減の設定が明らかになっており、必要なネガティブ情報の取りこぼしがないと説明できるでしょうか。独自データベースで判断したことが「正しい判断」であることを対外的に説明できるでしょうか。また、そのようなデータベースは、個人情報保護法をはじめとするプライバシー保護規制上、問題がないでしょうか。
コンプライアンスチェックは法令遵守を目的とした業務ですので、こうした点にも十分な配慮が必要です。
もちろん「効率化」を否定するものではなく、効率化“だけ”では十分な法規制対応と言えない点が本来の論点です。
- 規制対象となる組織や団体・人を細かく定義して整理し、簡単に判別できるデータや本人特定できる属性情報が豊富である。
- 判断基準やその根拠となる情報がきちんと残り、属人的な運用にならない。
このような確かな(信頼性の高い)情報を提供するコンプライアンスチェックツールを選ぶことで、正しい判断が直ぐにできるようになり、真に効率的なコンプライアンスチェックが実現できます。
(3) 対外説明力
有事の際に規制当局・取引先などステークホルダーに対して、合理的な説明ができるかを確認します。
- 監査証跡:誰が、いつ、何で検索し、何を根拠に判断したかが追える
- エビデンス保存:ヒット根拠のスナップショット、参照元、検索条件、ケースメモが保全できる
- 出力:稟議・規制当局・取引先説明に耐える体裁で、再現可能な形で出せる
記録保存は、本人確認資料等の証跡に加え、取引・照会の記録など「必要な記録」を保存することが求められます。
(4) ガバナンス/セキュリティ
コンプライアンスチェックツール自体のリスクを下げるためにはセキュリティ面などの確認も必要です。
- アクセス制御・操作ログ・権限設計・データ保全(改ざん耐性、保管期間、外部委託時の統制)などのセキュリティ
加えて、運用の基本はPDCA。コンプライアンスチェックツール導入後も、プロセスの評価・見直しが回る設計が望ましいです。
まとめ:良いコンプライアンスチェックツールは「検索が速い・簡単」より「説明が強い」
コンプライアンスチェックは、リスクの芽を拾うだけでなく、合理的な判断結果を記録として残し、対外的に説明できる状態にすることが重要です。だからこそ、コンプライアンスチェックツール選定の軸は「どれだけ当たるか」「どれだけ効率化できるか」ではなく、「データの信頼性」と、「規制当局・取引先などステークホルダーに対して合理的に説明できるか」を重視するのが一般的です。
過去には、好ましくない企業との取引が発覚し、倒産した会社もあります。
コンプライアンスチェックツールは自社を守るツールと言えます。コンプライアンスチェックツール選定の際には、導入コストだけを意識するのではなく、コンプライアンスチェックの目的である、対外説明に耐え得る体制、適切な内部統制システムの構築につながるのか、を意識すると、最適なコンプライアンスチェックツールが選定できます。
本コラムが、最適なコンプライアンスチェックツール選定の一助になれば幸いです。

