日経リスク&コンプライアンス/コラム

マネーロンダリング・テロ資金供与対策における
ネガティブニューススクリーニングの高度化

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日本経済新聞社
情報サービス部門 情報サービスユニット
ソリューションマネジャー 紙本 雄輔

日経リスク&コンプライアンスの事業責任者。
15年以上に渡り、アンチマネーロンダリング・テロ資金供与対策、信用リスク管理、サプライチェーンマネジメント各分野における、リスク管理ソリューションのコンサルティングおよびセールス・マーケティング業務に従事。
2012年ダウ・ジョーンズに入社。リスク&コンプライアンスディレクターとして、AMLフィルタリング業務やカスタマー・デューデリジェンス/第三者デューデリジェンス業務に関するコンサルティング、国内向けサービスコンテンツの企画、講演活動を行う。 2019年7月、日本経済新聞社に入社、情報サービス部門 情報サービスユニットのソリューションマネジャーに就任。

日本経済新聞社 情報サービス部門 情報サービスユニット ソリューションマネジャー 紙本雄輔
01

マネーロンダリング・テロ資金供与対策に必要なネガティブニュース

金融機関を始めとする特定事業者は、リスクを適切に特定・評価し、リスクに見合った低減措置を講ずるという、いわゆる「リスクベース・アプローチ」に基づく顧客管理措置の徹底が求められています。

低リスク先の顧客については、簡略的な顧客管理措置が認められる一方、高リスク先の顧客については、より厳格な顧客管理措置を行う必要があります。高リスク先と判断する一例として、ネガティブニュース(不芳情報)の検知が挙げられています。

こうした取り組みは取引開始時だけでなく、受け入れ後も継続的に行われる必要があります。特定事業者は、全ての顧客に対してリスク評価を行うだけでなく、取引開始後も機動的に顧客リスク評価を見直し、リスクの多寡に応じて、顧客情報の確認や調査を行うことが求められています。

顧客リスク評価の見直しにあたっては、ネガティブニュース(不芳情報)の把握や疑わしい取引の届出などが契機となります。顧客に関係するネガティブニュースを検知するには、大量の顧客情報とネガティブニュースを継続的に照合する必要があります。

02

一般的なネガティブニューススクリーニングの問題点

一般的にネガティブニュースは、新聞記事や雑誌などの検索システムを使って、1件ずつ検索が行われます。顧客名と特定のネガティブキーワードを掛け合わせて、新聞記事や雑誌などの非構造化データに対して全文検索を行う仕組みとなっています。全文検索の仕組みは検索処理に時間がかかるため、技術的に大量検索処理ができない、もしくはバッチ処理が出来たとしても、処理件数に上限があるため、大量の顧客情報とネガティブニュースを一括照合することができないといった問題を抱えています。

他にも、一般的なネガティブニューススクリーニングは、リスクとは無関係な大量の「ノイズ」や、設定したネガティブキーワードの不備によるネガティブニュースの検知漏れなどの課題があります。

そのため、ノイズや検知漏れを防ぎながら、規制当局が求めるような、ネガティブニュースを活用した機動的な顧客リスク評価の見直しを実現するためには、スクリーニングの高度化が不可欠となります。

03

スクリーニングの高度化

ネガティブニュースのような非構造化データに対するスクリーニングは、ウォッチリストのような構造化データに対するスクリーニングの仕組みと大きく異なります。スクリーニングの高度化のために新たなシステムを導入するなどの手段も考えられますが、ここでは出来る限り既存のスクリーニングの仕組みや運用を生かしたアプローチについて考察します。

既存システムを生かしてスクリーニングを高度化する手法としては、ネガティブニュースを構造化データへと変換し、フィルタリングリストの一つとして、既存のスクリーニングシステムを使って、大量の顧客情報と高頻度で照合する手法があります。

このアプローチは、従来、多くの金融機関で収集されている不芳属性先情報、いわゆる「ブラックリスト」のメンテナンス運用を拡張したものです。ただ、マネーロンダリング関連ニュースのように大量のネガティブニュースを手作業でリスト化することは、現実的ではありません。

そこでネガティブニュースをリスト化し、構造化データに変換する一連の作業を自動化する必要があります。あらかじめニュースデータを処理しておくことで、構造化データへの変換が容易となります。

構造化データに変換できるよう、ネガティブニュースを既存のスクリーニングシステムで活用可能な形式にし、実効性のあるスクリーニングを実現するためには、以下のプロセスが考えられます。

既存のスクリーニングシステムで照合を行う場合、取り込み可能なリストフォーマットが決まっているので、簡易な変換プログラムを作成するのが最も早いでしょう。タグ情報を利用してマッピングし、フォーマット変換ができれば、他のフィルタリングリストと同様にスクリーニングすることができます。

また、ネガティブニュースをマネーロンダリングや制裁、反社会的勢力というように業務の目的に応じてフィルタリングリストを作成できれば、より柔軟なスクリーニングの運用も可能になります。

04

最後に

規制当局は、特定事業者に対して、リスクベースによる継続的顧客管理の徹底を求めていますが、決して形式的な顧客管理措置ではなく、顧客の実態把握のために行われるべきものとして強調しています。ネガティブニュースは、顧客の実態を把握し、顧客リスク評価を継続的に見直していく上で、重要な端緒情報となりえます。

そのため、マネーロンダリング・テロ資金供与対策において、ネガティブニュースがより一層活用されていくものと考えられますが、従来のネガティブニューススクリーニングの手法では大量の照合が困難であるなど、規制当局の要求に応えるためには、従来のアプローチとは異なる手法を検討する必要があります。

ネガティブニューススクリーニングは、古くから行われている業務ではあるものの、大量処理やノイズ、検知漏れなど課題が多く、スクリーニングの高度化をはじめ、更なる検討が求められる領域と言えます。

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