- コラム・インタビュー
- マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策
国土交通省の「宅地建物取引業におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与・拡散金融対策に関するガイドライン」では、宅建業者に対し、法令順守にとどまらず、自社が直面するリスクを特定・評価し、そのリスクに見合った低減措置を講じることが求められています。特に不動産取引は、高額・換金性・資産保全目的といった特性から、犯罪収益の移転や隠匿に使われやすい領域として位置づけられています。
また、2026年2月に国土交通省から出された事務連絡において、「リスク評価書」の作成が完了していない点や、疑わしい取引の届出を実施するか否か判断に迷った際に届出しないことが課題としてあげられており、2026年度中の対策が求められています。
リスクベース・アプローチ
実務の中心になるのが、リスクの「特定→評価→低減」のリスクベース・アプローチです。それぞれの流れに沿って何をすべきか整理します。
リスクの特定
ガイドラインでは、リスクの特定はリスクベース・アプローチの出発点であり、取引に係る国・地域、取引態様、顧客属性を包括的かつ具体的に洗い出すことが求められています。さらに、その結果をもとに、自社への影響度や優先度を客観的に評価し、低減措置につなげることが必要です。
リスクの評価
ここで重要なのが、「ガイドラインを読む」だけでは足りず、自社の営業エリア、顧客層、取引類型、過去の届出状況まで踏まえて、自社向けに整理することです。国交省の「リスク評価書作成要領」でも、警察庁の「犯罪収益移転危険度調査書」や制裁リスト等を参照しつつ、自社の商品・サービス、顧客属性、関係しうる国・地域を具体的に洗い出し、リスクの高低を判断するよう示されています。
つまり、このリスクベース・アプローチを自社の実態に合わせて文書化したものが「リスク評価書」です。国交省は2026年2月の事務連絡で、未着手事業者は令和8年度中にリスク評価書の作成を完了するよう求めるとともに、リスク評価書の作成によってマネロンリスクへの意識向上と疑わしい取引の届出件数の向上を図る必要があるとしています。
リスクの低減措置
リスクを評価したら終わりではなく、次は低減措置です。ガイドラインでは、低減措置の中核として、顧客管理(CDD)、取引モニタリング、確認記録・取引記録の保存、疑わしい取引の届出が整理されています。とくに、顧客本人だけでなく、法人の実質的支配者、取引目的、資金の工面や資金源、必要に応じた制裁リスト等との照合まで含めて、リスクに応じた対応をすることが求められます。
その他、疑わしい取引の届出、ITシステムの活用、データ管理(データ・ガバナンス)も合わせて求められています。とくに、疑わしい取引の届出(ウタトリ)は、犯収法第8条第1項に定める法律上の義務であり、同法の「特定事業者」に該当する宅地建物取引業者が、届出等の義務を果たすことは当然であると述べられています。
管理体制と見直し
ガイドライン第III章では、方針・手続・計画等を策定し、実施・検証・見直しまで回すPDCAが重要とされています。リスク評価書も一度作って終わりではなく、定期的な見直しや、重大な事象が起きた際の随時更新が前提です。国交省の作成要領でも、少なくとも毎年1回、または新たな制裁や重大事案などが生じた場合には見直すことが示されています。
また、現場に任せっきりになるのではなく経営陣の積極的な関与・理解を元に、事業・管理・監査の各部門の役割と責任を明確にする必要があり、合わせて、国内外含めたグループ全体として一貫性のある体制を整備することも示されています。
監督当局のモニタリング
国交省はガイドライン上、管理体制に問題がある場合には、報告徴求等の法令に基づく行政対応を行い得るとしています。最近ではガイドライン準拠だけでなく、リスク評価書の整備状況や、疑わしい取引の届出運用が回っているかも、説明可能性が問われるポイントになっています。
取引先管理・コンプライアンスチェックの体制づくりは、お気軽にご相談ください
参考:「ウタトリ」とは?
ウタトリとは、実務上の略称で、「疑わしい取引の届出」を指します。この届出は犯収法上の義務であり、業務遂行の過程において収受した財産が犯罪収益ではないか、あるいは顧客が犯罪収益を隠匿しようとしている疑いがある場合に、速やかに行政庁へ届け出るものです。届出情報は、警察庁のJAFIC(資金情報機関)で集約・分析され、捜査等に活用されます。
不動産業界での事例では、収入・資産に見合わない高額物件の購入、多額現金での決済、架空名義や借名の疑い、短期売買の反復、不自然に秘密性を強調する行動などが、示されています。なお、ガイドラインでは、売買契約が成立していない場合や、申込み撤回・契約解約に至った場合でも、疑わしいと判断すれば届出対象になり得るとされています。
さらに国交省は2026年2月の事務連絡で、ハンドブック掲載の「疑わしい取引の届出に関するチェックリスト」に1つでも該当すれば届出を行うこと、該当するか明確でなく判断に迷う場合でも届出を行うことを明確化しました。加えて、届出を行った場合に、契約を締結しても犯収法違反とはならず、契約締結自体が否定されるものではないことも示されています。
日経リスク&コンプライアンスでご支援できること
こうしたAML対応で現場がつまずきやすいのは、以下の点ではないでしょうか。
- 「何を高リスクと見るべきか分からない」
- 「取引相手・関係先に対する制裁・レピュテーション等のリスク確認が属人的」
- 「記録はあるが、届出判断につながらない」
- 「リスク評価書をどう作成してよいか分からない」
日経リスク&コンプライアンスは、こうした実務において、顧客や関係者が反社会的勢力と関係がないか、制裁対象者・実質的支配者が制裁対象者である企業(OFAC50%ルール対象企業)・PEPs(重要な公的地位にある方)に該当しないかのコンプライアンスチェックや、確認・判断の証跡を整理しやすい運用づくりを支援します。
さらに、「自社のどの取引・どの顧客が高リスクなのか」を整理し、リスク評価書に落とし込むところまで伴走する、アドバイザリーサービスも用意しています。日経のデータベース利用だけではなく、「自社のリスクを定義し、マネロン対策が迷わず回る状態」をつくる支援まで可能です。
- 「ガイドラインは読んだが、どう始めてよいかわからない」
- 「リスク評価書は未整備、または更新できていない」
- 「ウタトリ判断が現場任せで、届出基準に不安がある」
どれかに思い当たる場合は、現状整理や進め方のご相談から対応可能ですので、お気軽にご相談ください。

