- コラム・インタビュー
- 経済安全保障規制
- 第三者(取引先)管理
経済産業省は、安全保障貿易管理において、管理体制の実効性を重視する姿勢を強めています。
経済産業省が2025年12月に公表した「外為法法令遵守立入検査の結果について(安全保障貿易管理関係)」では、「重大な指摘」又は「対応依頼」の内容の書面を発出した企業は全体の78%にのぼり、2023年の79%と比較しても依然高い割合で指摘がされています。
指摘の中心は一貫して取引審査であり、全体の指摘件数325件のうち、取引審査は139件、そのうち該非判定に関するものは25件でした。これは、当局の関心が「品目分類だけ」ではなく、より広い取引管理全体に向いていることを示しています。
本コラムでは、立入検査の指摘事項から見える課題と、国内外の規制動向を踏まえ、いま企業に求められる「合理的な管理プロセス」について解説します。
この記事のポイント
- 立入検査の指摘は「該非判定」ではなく取引管理全体に向いている
- 問われているのは「合理的な管理プロセスがあるか」
- 国内外の規制はリスクベースアプローチへ収斂している
立入検査で指摘された具体的な事項
立入検査で具体的に指摘された内容では、リスト規制の該非判断に加え、技術提供の管理、また用途・需要者の確認、継続的な見直しの必要性が示されています。
【引用】実際の指摘事項
分類 指摘内容 取引審査 商流途中の輸入者・代理人を含め、需要者等の審査を確実に実施し、その際、チェックシートのみならず、確認エビデンスも併せて保存すること。
技術提供についても、輸出管理上重要であるとの認識を高めるため、関係者に十分な教育等を行い、該非判定、取引審査、提供管理を確実に行うこと。
継続取引時においても包括許可使用時は、輸出の都度、特例の確認も含め、包括許可証の適用可否判断及び取引審査を行うこと。
輸出先がグループ会社の場合であっても、用途・需要者等の確認を怠らないこと該非判定 貨物、役務の該非判定は、メーカーから入手した該非判定書を鵜呑みにせず、判定の根拠となる項目別対比表等証跡を併せて入手するなど、自社で最新法令に基づき確認し、証跡を残すこと。 出荷管理 貨物の出荷管理及び技術の提供管理について、CPに則り適切に実施するとともに、輸出管理部門は事業部門任せにせず、貨物の輸出実績又は技術の提供実績まで適切に管理すること。 その他 教育については、役員及び輸出管理や輸出関連業務に従事する者全員に対して定期的に行うこと。 引用元:「外為法法令遵守立入検査の結果について(安全保障貿易管理関係)」経済産業省
指摘事項から見える課題
具体的な指摘事項をまとめると、以下のような課題が明らかになります。いずれかに該当する場合は、自社の取り組みを見直す必要があるようです。
- 貨物は非該当だが、技術提供の該非を見ていない
- 用途・需要家・貿易関係者の確認が十分でない
- 輸出先がグループ会社の場合、用途・仕向先等の確認をしていない
- 該非判定は一度やって終わりにしており、契約ごとに実施はしていない
- 該非判定はメーカーなど人任せにしており、自社で対応した証跡がない
- 判断根拠や記録が改ざん可能な形で分散し、説明が困難である
- 事業部門任せにしており、会社全体としては取り組んでいない
- 輸出管理や関連業務に関わる全員に定期的に教育をしておらず、社内の文化醸成ができていない
取引先管理・コンプライアンスチェックの体制づくりは、お気軽にご相談ください
合理的な管理プロセスがあるか
該非判定で「リスト規制に非該当」と判断された場合であっても、キャッチオール規制の観点から用途や需要者によっては規制対象となり得る点や、貨物は非該当であっても技術提供が対象となる点など、これまでの安全保障貿易管理上の盲点が、立入検査において指摘されています。
該非判定で「非該当」=安全保障貿易管理の対象外、と安易に整理するのではなく、仕向先、中間商流の企業、需要者や用途などサプライチェーン全体のリスクを捉え対応する必要があります。「外為法違反事案の分析結果について(安全保障貿易関係)」においても、「違反は個々の様々な要素の連鎖の結果」と論じられており、単に該非判定を行っているかではなく、判定・審査・出荷が一連の業務としてつながり、その貨物・技術が最終的に誰に渡り、何に使われ、どこへ向かうのかまでを、証跡を伴って確認できる管理態勢、つまり「合理的な管理プロセスがあるか」が問われているといえます。
ここで重要になるのが、リスクに応じて管理の深さを変えるという発想です。日本の外為法は欧米の規制当局のように「リスクベースアプローチ」という言葉を使っている訳ではありませんが、経済産業省の実務資料では実質的に「リスクベースアプローチ」の考え方を示しています。たとえば、需要者等の確認に関する手続について、公開情報の定期確認、第三者情報の確認、需要者へのヒアリング、契約条項の工夫などを例示したうえで、「取引量や性質、仕向地等を踏まえての実施を想定しており、一律同じ内容を求めるものではない」と明記しています。これは、合理的な管理態勢が画一的な重装備ではなく、自社の品目・仕向地・商流・提供形態に見合った重点管理であることを示しています。
海外の規制と考え方について
では、海外の輸出管理法制はどうでしょうか。
米国OFACのリスクベースアプローチ
米国財務省外国資産管理局(OFAC)は、制裁コンプライアンスについて、リスクベースアプローチを正面から打ち出しています。OFACはSDNリストや対象国等との接点を考える際に、製品やサービス、顧客、地域、取引の性質などを踏まえてリスク評価を行い、高リスク領域を特定し、そのリスクの多寡に合わせて実効的な対応ができるよう整備すべきだと説明しています。OFACの方針では、規則を読むこと以上に、自社がどこで制裁リスクに接触しうるかを把握し、リスクの高い事業や取引等に統制を効かせることが中心です。
EUのデュアルユース規則と対ロシア制裁ガイダンス
EUも近年リスクベースアプローチの方針を鮮明にしています。EUのデュアルユース(軍民両用)規則では、規制の目的として意図された最終用途や迂回のリスクを考慮することを明記しています。さらに欧州委員会の内部コンプライアンスプログラム勧告では、輸出者がリスクを特定し、管理し、低減するための枠組みを示しています。
加えて、2023年・2024年の対ロシア制裁関連ガイダンスで、EU事業者に対し戦略的なリスク評価を求め、自社の事業モデル、事業を展開する地域や業種、関連するリスク評価を反映したデューデリジェンスを策定、実施し、定期的に更新する必要性を説いています。2025年のFAQでは、単一のデューデリジェンスモデルはなく、特定されたリスクに応じた対応をとるべきだとしています。EUもまた、単純なリスト照合から、サプライチェーンや第三国経由を含めたリスクベースの管理へと重心を移しています。
米BISの「50%ルール」
また、2025年9月に米商務省(BIS)が発表した「50%ルール」では、貿易関係者がエンティティリストや軍事エンドユーザーリスト(MEUリスト)、OFAC SDNリスト対象者によって実効支配された企業でないか、確認することを求めています。50%所有の判定に必要な所有関係分析そのものについて、OFACの50%ルール対応の一環としてリスクベースアプローチで実施していることを期待されており、仮に50%未満の支配でもリスクが高そうであれば審査を深くすることも求めています。
こうした海外の規制は貿易にも深く関係してきます。国内の外為法だけでなく、海外の輸出管理についても把握し、同時に整備する必要があります。
合理的な管理体制におけるリスクベースアプローチの重要性
このような国内外の環境変化の中、企業は規制対象品目の該非判定だけでなく、技術や軍民両用品(デュアルユース品目)、国地域や需要家といった要素を加味した、リスクベースでの管理が求められていると言えます。
OFACの50%ルール導入をはじめに、EUや日本など各国も追従する流れをみせ、またBISも50%ルールを発表するなど、規制対象者の関係者を含めたリスクベースアプローチによるリスク管理が周辺に広がりつつあります。
日本においても、2024年「外国為替取引等取扱業者のための外為法令等の遵守に関するガイドライン」施行にあたり、資産凍結対象の取り扱いに関するリスクの特定・評価・低減(いわゆるリスクベースアプローチ)およびそれらを徹底するための内部管理の態勢整備に言及しています。
大切なのは、貿易リスクを該非判定の結果がすべて、として捉えるのでは無く、サプライチェーンに関係する仕向先、中間商流の輸入者・代理人、需要者が規制対象者の支配下にないか、用途に問題はないか、など周辺にも高いリスクが潜むことを理解し、検知してゆくことが合理的なリスクの管理になるということです。
国内外の流れを見ても、リスクベースアプローチを取り入れた輸出管理を整えてゆくことが、求められている「合理的な管理プロセス」の構築であり、貿易コンプライアンスの本質といえます。

