日経リスク&コンプライアンス/コラム

不正競争防止法で
技術流出を防ぐ!
営業秘密の守り方と
取引先リスク調査の重要性

Release  2026.05
  • コラム・インタビュー
  • 経済安全保障規制
  • 第三者(取引先)管理

先端技術が企業競争力を左右する現代において、不正競争防止法の理解は、攻めと守りの両面で重要性を増しています。

本記事では、営業秘密侵害の基本的な考え方、法改正による罰則強化のポイントに加え、技術流出リスクを低減するための取引先リスク調査の有効性について解説します。

01

不正競争防止法の基礎と役割

不正競争防止法は、企業間の公正な競争環境を維持するために、営業秘密の侵害や模倣行為などを規制する法律です。

特許のような登録制度ではなく、企業の情報管理体制そのものによって保護の可否が決まる点が特徴です。

本章では、不正競争防止法の基礎と役割について解説します。

不正競争防止法の目的

日本の経済活動において、企業が独自の技術やアイデア、蓄積されたノウハウを活用して競争することは、イノベーションの創出や社会の発展を支える重要な原動力となります。

しかし、自由な競争が認められているからといって、どのような手段を用いても許されるわけではありません。

市場経済の健全な発展を維持するためには、公正な競争ルールが不可欠です。

不正競争防止法は、このルールを損なう行為を規制し、事業者間の公正な競争を確保するために制定されています。

本法の根幹にある目的は、営業秘密の不正な取得や使用、開示行為を防止すること、ならびに商品の原産地や品質を偽る誤認表示などを禁止することを通じて、公正な市場競争の秩序を維持することにあります。

現代の市場経済において、競合他社を不当に出し抜く目的で他者の成果を模倣・流用する行為は、市場の公正性や信頼を損なう不正競争として位置づけられています。

具体的な規制対象としては、他社が長年かけて築いたブランドや商標、商品デザインを模倣し、その知名度や信用に依拠して利益を得るフリーライド行為が挙げられます。

また、研究開発により蓄積された製造ノウハウや顧客データ、技術情報といった営業秘密を、サイバー攻撃や内部関係者の引き抜き、不正な持ち出しなどの手段で取得する行為も厳しく規制されています。

さらに、消費者を欺くような模倣品や海賊版を市場に流通させる行為や、商品の品質・原産地を偽って販売する行為も、公正な競争を阻害する代表的な違反行為です。

不正競争防止法は、これらの悪質な行為に対して、民事・刑事の両面から非常に厳しいペナルティを科すことで強い抑止力を発揮しています。

民事上の救済措置としては、被害を受けた企業が侵害行為の停止や模倣品の廃棄を求めることができる差止請求権や、被った経済的損失を補填させる損害賠償請求権が認められています。

さらに刑事上の制裁として、悪質な営業秘密の侵害や海外への技術流出に対しては、個人への重い懲役刑や罰金刑だけでなく、その実行犯が所属する法人に対しても高額な罰金を科す両罰規定が整備されています。

このように、民事と刑事の網の目を精緻に張り巡らせることで、技術力の高い企業やリスクを負って大規模な研究開発投資を行い、これまでにないイノベーションを起こした先進的な企業が保護されます。

不当な手段によって経営成果を搾取されることなく、投資した成果を市場で正当に回収し、正当に評価される環境が維持されるからこそ、企業は安心して次のステップへと進むことができるのです。

不正競争防止法は、単に違反者を処罰するためだけの法律ではなく、健全なビジネスエコシステムを守り、我が国の産業全体の国際競争力を底上げするための極めて重要な法制度としての役割を担っています。

営業秘密の3要件

営業秘密として不正競争防止法による保護を受けるためには、単に社内で重要な情報として扱っているだけでは不十分です。

法律上は、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

1.秘密管理性

企業がその情報を秘密情報として管理していることが必要です。

具体的にはアクセス権限を制限する、パスワードを設定する、施錠管理を行う、「社外秘」や「マル秘」などの表示を付けるといった措置が挙げられます。

秘密管理性を満たしているかどうかは、実際の紛争時にも重要な判断要素となります。

2.有用性

その情報が事業活動に役立つ技術上または営業上の情報であることが求められます。

例えば、製造ノウハウや設計図面、ソースコードといった技術情報のほか、顧客名簿や営業マニュアル、価格交渉データなども対象となります。

一方で、脱税や不正行為に関する情報など、社会的に保護する価値のない情報は対象外です。

3.非公知性

一般に知られておらず、容易に入手できない状態であることも必要です。

刊行物への掲載やインターネット上での公開などによって誰でも閲覧できる情報は、営業秘密として保護されません。

これら3つの要件のうち1つでも欠ける場合、その情報は営業秘密として認められず、不正競争防止法による保護を受けられない可能性があります。

そのため、日頃から情報管理体制を整備・運用することが、営業秘密を適切に保護するための重要な前提となります。

02

技術流出の主な経路とリスク

技術や顧客情報が外部に流出すると、市場シェアの喪失、競争力低下、訴訟対応コストの増大など、事業全体に深刻な影響を及ぼします。

また、機微技術の場合は安全保障輸出管理上の問題に発展する可能性もあります。

本章では、技術流出が事業全体に与える影響について解説します。

主な技術流出の経路

企業の技術流出はさまざまな形で発生しますが、主な経路にはいくつかの共通パターンがあります。

まず挙げられるのが、共同開発先や業務委託先からの漏えいです。

提携企業や外部パートナー企業に共有した技術情報が、相手先の管理不備やセキュリティ対策不足によって第三者へ流出するケースがあります。

次に、役員や従業員、退職者などの内部関係者による持ち出しです。

在職中にアクセスできた図面やソースコード、顧客データなどを不正に持ち出し、転職先や競合企業へ流出させる事例も報告されています。

さらに、取引先企業の内部不正や管理体制の不備によって情報が漏えいするケースもあります。

こうした流出は自社の管理範囲外で発生するため、事前に兆候を把握することが難しい点が特徴です。

たとえ自社内のセキュリティ対策を強化していても、取引先や委託先を経由して技術情報が流出する可能性は残ります。

そのため、技術流出対策では自社だけでなく、サプライチェーン全体を視野に入れたリスク管理が重要となります。

03

法的保護と罰則

不正競争防止法では、営業秘密の不正取得・使用・開示に対して厳しい制裁が設けられています。

本章では、法的保護と罰則について解説します。

民事上の責任

自社の営業秘密が侵害された場合や、侵害されるおそれがある場合、被害企業は侵害者に対して民事上の請求を行うことができます。

代表的なものが差止請求です。

差止請求により、侵害行為の停止や将来の侵害防止を求めることができるほか、製品の製造停止や廃棄、不正取得されたデータの消去、関連設備の除却などを請求することも可能です。

また、故意または過失によって営業秘密が侵害され、損害が発生した場合には、損害賠償請求や不当利得返還請求を行うことができます。

従来、技術流出に関する民事訴訟では、被害企業が損害額を立証することが難しいという課題がありました。

しかし近年の法改正により、損害額の推定規定が拡充され、侵害者が不正利用によって得た利益などをもとに損害額を算定しやすくなっています。

これにより、被害企業は以前よりも迅速かつ実効性のある法的救済を受けやすくなりました。

刑事罰と国際的適用

近年の法改正により、不正競争防止法における営業秘密侵害への刑事罰は強化されています。

不正な利益を得る目的や、企業へ損害を与える目的で営業秘密を不正に取得・使用・開示した場合、個人に対して10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金(海外使用目的等の場合は3,000万円以下)が科される可能性があります。

さらに、実行した個人だけでなく、その者が所属する法人に対しても5億円以下(海外使用目的等の場合は10億円以下)の罰金が科される両罰規定が設けられており、企業の管理・監督責任も重く問われます。

特に重要なのが、国際的な適用範囲である「域外適用」です。

日本国内で管理されている営業秘密が、海外からの不正アクセスによって窃取された場合や、日本で勤務していた従業員が海外の競合企業へ営業秘密を持ち出した場合には、侵害行為が国外で行われていても日本の不正競争防止法が適用される可能性があります。

これにより、国境を越えた技術流出に対しても、日本の捜査機関による捜査や法的措置が可能となっています。

グローバルに事業を展開する企業にとって、この厳格な罰則や域外適用の仕組みを理解することは、知的財産の保護だけでなく、国際的なコンプライアンス体制を構築する上でも重要なポイントといえるでしょう。

04

技術流出を防ぐ高度な取引先デューデリジェンス

先端技術を扱う企業にとって、最大の技術流出経路の一つは、提携先や外注先です。

不正競争防止法を遵守する体制が整っていない企業との取引は、自社の重要な技術資産を危険にさらす可能性があります。

共同開発や委託製造の現場では、業務を円滑に進めるために、自社のコア技術に関する機密情報を取引先へ共有せざるを得ない場面が少なくありません。

しかし、どれほど厳格な秘密保持契約(NDA)を締結していたとしても、契約は情報流出後の責任や損害賠償について定めるものであり、情報流出そのものを未然に防ぐことはできません。

本章では、調査によるリスク判定の有効性を解説します。

先端技術企業が求める安心の構築

量子技術、AI、半導体、バイオテクノロジー、新素材など、国家の競争力を左右する先端技術を扱う企業にとって、従来の一般的な信用調査だけでは、巧妙化する技術窃取リスクへの対応は十分とはいえません。

そこで重要となるのが、経済安全保障の観点を含めた高度なデューデリジェンスの実施です。

具体的には、まず実質的支配者(UBO)の特定が挙げられます。

取引先企業の背後に、自社技術の取得を目的とする海外企業や政府系ファンド、安全保障上の懸念がある資本が関与していないかを、株主構成や経営権の状況から確認します。

また、地政学リスクや輸出管理コンプライアンスの観点から、国際的な制裁対象企業や軍事関連組織との関係の有無、過去の法令違反歴などについてもスクリーニングを実施します。

さらに、反社会的勢力との関係性についても、各種インテリジェンス情報を活用して確認します。

こうした取引先の背景や潜在的なリスクを事前に把握し、リスクの高い取引を未然に回避することが、先端技術企業に求められる安全な取引体制の構築につながります。

05

まとめ

不正競争防止法は、企業の営業秘密や技術情報を保護する重要な法制度です。

しかし、その保護を十分に受けるためには、営業秘密の3要件(秘密管理性・有用性・非公知性)を満たした情報管理体制を整備するとともに、取引先や委託先に対する適切なリスク管理を行うことが欠かせません。

自社のセキュリティ対策を強化していても、サプライチェーン上の管理が不十分であれば、技術流出や営業秘密侵害のリスクは残ります。

そのため、自社のガバナンス体制を見直すとともに、取引先リスク調査やデューデリジェンスを通じて、潜在的なリスクを事前に把握することが重要です。

こうした取り組みを継続することで、技術流出リスクを低減し、企業の競争力や信頼性の向上につなげることができるでしょう。

06

不正競争防止法に関するよくある質問(FAQ)

本章では、不正競争防止法に関するよくある質問を紹介し、解説します。

企業活動や知的財産の保護に直結する重要な法律であり、実務で判断に迷いやすいポイントを整理しています。

Q1:特許を取得していないノウハウでも、不正競争防止法で守られますか?

営業秘密として認められる3要件(秘密管理性・有用性・非公知性)を満たしていれば、特許を取得していない製造ノウハウや配合技術、設計図面、顧客リスト、価格表なども不正競争防止法による保護対象となります。

特許は出願後に技術内容が公開されるため、あえて特許化せず、営業秘密として管理することで競争優位性を維持する企業も少なくありません。

ただし、そのためにはアクセス権限の管理や「社外秘」「マル秘」表示などを行い、秘密情報として適切に管理されていることが重要です。

Q2:元従業員による技術持ち出しは、どのような罪になりますか?

役員や従業員、退職者が、不正な利益を得る目的や会社に損害を与える目的で営業秘密を持ち出し、転職先で使用したり第三者へ開示したりした場合、不正競争防止法上の営業秘密侵害に該当する可能性があります。

違反した場合、個人に対しては10年以下の懲役または2,000万円以下(海外への持ち出し等の場合は3,000万円以下)の罰金(またはその両方)が科される可能性があります。

また、転職先企業が営業秘密の流出を認識した上で利用していた場合には、その法人に対しても5億円以下(海外使用目的等の場合は10億円以下)の罰金が科される両罰規定が適用されることがあります。

そのため企業には、退職時の秘密保持契約の締結に加え、重要データへのアクセスログの管理や監査体制の整備など、技術流出リスクを低減するための継続的な対策が求められます。

Q3:取引先が不正競争防止法に違反しているか、自社だけで判断できますか?

取引を開始する際、多くの企業が秘密保持契約の締結や、コンプライアンスに関するチェックシートへの回答確認を行っています。

しかし、これらはあくまで自己申告や書面上の手続きにすぎず、取引先の社内で本当に適切な情報管理が行われているか、従業員のモラルハザードが起きていないか、あるいはその企業の背後に不適切な資本や安全保障上の懸念がある資本が関与していないか、といった実態を十分に把握することは容易ではありません。

自社のリソースだけで網羅的な調査を行うには限界があるため、必要に応じて外部の専門機関や調査サービスを活用する方法もあります。

多角的なバックグラウンドデータや知財リスク分析に基づいた指標を得ることで、より客観的なリスク評価につなげることができます。

監修者

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