ナレッジマネジメントとは
個人の知識やノウハウを組織で活用すること
ナレッジマネジメントの「ナレッジ」とは、知識や知見、スキル、ノウハウなど、幅広く業務上で役立つ情報を意味します。個人の持つナレッジを組織全体で共有し、活用するのがナレッジマネジメントの考え方です。日本語では、「知識管理」「知識経営」などと訳されます。
これまで、日本企業では終身雇用制度を前提に社員教育が行われおり、10年、20年という長いスパンで社員を育てることが一般的でした。社員には数年おきに異動や転勤などでさまざまな業務を経験させ、自然に幅広い知識を身につけたジェネラリストを育てていたのです。
しかし、終身雇用制度が崩壊しつつあり、働き方が多様化した今、長期的な人材育成や、自然な知識・ノウハウの継承は困難になりました。加えて、ビジネスを取り巻く環境もめまぐるしく変化し、企業は日本だけでなく、グローバルな市場を相手にしなければならなくなっています。従来のままの業務を続けているだけでは太刀打ちできず、常に新しい情報を取り入れ、進化することが求められています。
そういった背景から、意図的に組織でナレッジを共有し、それによってイノベーション(技術革新)を期待するナレッジマネジメントが求められているのです。
無料トライアルはこちらナレッジマネジメントを行うメリット
ナレッジマネジメントは、組織力の強化や業務効率化などに役立てることが目的です。ナレッジマネジメントを行う具体的なメリットを見ていきましょう。
組織力の強化
知識やノウハウを共有し、業務の属人化を防ぐことができれば、社員の退職・休職による業務の停滞やトラブルを回避できるでしょう。また、社内全体でナレッジマネジメントを行い、他部署の知見についても広く共有することで、さまざまな事例に対する応用力を高める効果が期待できます。
普段、業務を行っているだけでは知りえない知識を得ることで、イノベーションが起こることも期待できるでしょう。
人材育成の効率化
個人の知見を企業内で共有することは、将来を担う人材を効率良く育てることにもつながります。例えば、営業ノウハウや店舗展開ノウハウなどを持つ個人が、その知識や経験をほかの社員に共有することで、別の社員が同じ業務を行う際の参考にすることができるでしょう。
業務効率化
知識の共有が進めば、それだけで業務効率化にも役立ちます。Aという知識を持っている人物が一人だけの場合、その業務に対応できる人材が限られ、業務が滞る原因になります。この知識を社内で共有し、誰でも業務にあたれるようになれば、大幅に業務効率を上げられるでしょう。
無料トライアルはこちらナレッジマネジメントの枠組み
「SECIモデル」
ナレッジマネジメントを実践する際には、暗黙知を形式知へと変換する「SECIモデル(セキモデル)」と呼ばれる考え方を取り入れること効果的です。
暗黙知と形式知とは?
暗黙知とは、言語化されていない主観的・感覚的な知識を指します。「職人のカン」「熟練の技」といった知識や技術などが暗黙知に分類され、人に伝えるのは簡単ではありません。
一方、形式知は主観的な知識を言語化したもので、客観的な知識のことです。マニュアルなどが形式知に該当します。
ナレッジマネジメントでは、まず主観的・感覚的な暗黙知から形式知への変換を行います。そして、形式知を受け取った人物が、それを自分の暗黙知として吸収するサイクルを作る必要があるでしょう。このような、個人の知識を組織全体で共有しようとする考えに、「SECIモデル(セキモデル)」があります。
新たな知識は、個人・集団・組織の中で、暗黙知と形式知を間断なく変換・移転することで創造されます。
SECIモデルは、暗黙知を形式知に変換し、移転し、新たな暗黙知を生み出すサイクルを表したものです。その際の、「Socialization」「Externalization」「Combination」「Internalization」という4つのプロセスの頭文字を取って、SECIモデルと名づけられました。
1. 共同化(Socialization):暗黙知→暗黙知
共同化は、共通の体験や作業を通して、暗黙知を伝達するプロセスです。新たな暗黙知が生まれるステップともいえるでしょう。OJTや子弟制度などが共同化にあたり、経験に基づいた信念や勘といった主観的な知識の共有は、言葉だけでなく体や五感を使わなければ難しいとされています。
2. 表出化(Externalization):暗黙知→形式知
表出化は、得た暗黙知を共有できるように、形式知に変換するプロセスです。共同化した暗黙知は、そのままでは他者と共有できないため、言葉はもちろん、映像や図、比喩、ストーリーなどを使って形式知にします。
3. 連結化(Combination):形式知→形式知
連結化は、形式知を組み合わせて新たな知識体系を創造するプロセスです。例えば、複数のチームでマニュアルを持ち寄ってすり合わせ、新たなマニュアルを作成するといったことが連結化のプロセスにあたります。ここで、個人の暗黙知が組織の形式知へと変わります。
4. 内面化(Internalization):形式知→暗黙知
内面化は、形式知を実践して、知識を体得するプロセスです。頭で理解した形式知を実践・行動して、新たな経験や知識、ノウハウといった暗黙知を得ます。
このサイクルを繰り返していくことで、組織で知識を共有し、より深めていくことができるでしょう。
無料トライアルはこちらSECIモデルの4つの「場」
SECIモデルでは、暗黙知を形式知に変えていくプロセスの中で、それぞれに応じた「場」が必要となります。これらの場は特別なものではなく、意味や目的を理解することで、組織で簡単に用意することが可能です。この4つの場についてご説明しましょう。
①共同化が行われる「創発の場」
創発の場は、考え方や思い、信念、経験などを共有する場です。OJTやロールプレイング、営業同行といった先輩との共同作業などのほか、職場での雑談や終業後の飲み会もこの場にあたります。誰かの暗黙知がほかの誰かの暗黙知として伝達され、共同化が行われます。
②表出化が行われる「対話の場」
対話の場は、対話によって暗黙知を言語化し、概念化していく場です。雑談のようなくだけた場でも、ディベートのようなかしこまった場でもなく、数人で自由に意見を出し合う「ブレインストーミング」や、リラックスしながら討論する「ワールドカフェ」といった、フラットに話し合える場で表出化が行われます。
③連結化が行われる「システムの場」
システムの場は、形式知が整理され、組み合わせられる場です。個人が持っている形式知を集約できる場であり、ICTを利用したグループウェアやSNSなどを利用することで連結化が行われやすくなります。形式知を集約して必要に応じて閲覧でき、さらにそれについて気軽に話し合える環境があれば、連結化は行われやすくなるでしょう。
④内面化が行われる「実践の場」
形式知を自分の技術や経験によって、暗黙知に転換する場が実践の場です。手に入れた形式知はそのままでは断片的な情報ですが、実践することで背景や意図まで理解できるようになるでしょう。業務中での体験のほか、研修やシミュレーションなどを行うことでも、内面化できるようになります。
無料トライアルはこちらナレッジマネジメントを導入する流れ
ナレッジマネジメントは、SECIモデルを意識して施策を考えることで、社員一人ひとりの知識を活用しやすくなります。ただし、闇雲に導入しても組織に浸透せず、思うような効果が出ない可能性もあるでしょう。
どのような手順でナレッジマネジメントを進めるべきなのか、具体的な導入の流れをご紹介します。
1. ナレッジマネジメントの目的を具体化
ナレッジマネジメントを導入する目的をはっきりさせ、組織で共有します。ナレッジマネジメントが社員と組織にどれだけメリットがあるのか、どのような目的でナレッジマネジメントを導入し、どのような目標を達成するのかを明確にして共有することで、社員が自分事として捉えられます。
2. 可視化・共有したい情報を策定
ナレッジマネジメントの目的が定まったら、達成のために必要な情報について検討します。社員が具体的にどのようなことに困っているかを収集しておくと、必要な情報がわかりやすくなるでしょう。
共有すべき情報を定めておくことで、社員が共有すべき情報と、しなくてもいい情報で迷いません。
3. 業務プロセスに情報共有を組み込む
情報共有を当たり前に行えるようにするためには、業務プロセスに「情報の共有」というフェーズを組み込むのが効果的です。できるだけ社員の負担なく共有が行えるシステムの導入や、業務プロセスを検討しましょう。
4. 定期的な見直し
p ナレッジマネジメントの仕組みを作っただけでは、効果は得られません。有効な情報が集まっているか、有効な情報が見つけやすいか、狙った効果が表れているかなどについて、定期的に見直しを行う必要があります。問題がある点は、順次改善していきましょう。
ナレッジマネジメントで
社員個人の知識を組織の財産に変える
転職が珍しくなくなり、テレワークやダブルワークなど、働き方が多様化した現代では、これまでのように自然と組織の知識が蓄積されていくのが難しくなりました。
ナレッジマネジメントを行うことで、社内に点在していた情報を組織の知識として可視化し、効率的に活用できるようになります。業務の属人化や組織力の停滞に課題を感じている組織のマネージャーやリーダーは、ナレッジマネジメントを導入してみてはいかがでしょうか。
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