外為法関連の最新動向を踏まえ、
企業に求められる制裁対象への
スクリーニングの高度化
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日本経済新聞社
情報サービス部門 情報サービスユニット
ソリューションスペシャリスト 福島 愛博
大手SIerを経て日本経済新聞社に入社。前職では主に金融領域において複 数のAML/CFT関連サービスの立ち上げをリード。 規制動向を踏まえた態勢整備・事務/システムの整理といった一気通貫で の支援を得意とし、現職ではその経験を活かし、主に第三者(取引先)管理のコンサルティング業務・講演活動に従事。 公認AMLスペシャリスト(CAMS)。
2024年の4月から施行された新外為ガイドラインによって、制裁規制の観点で企業は関係する取引先をより厳格に管理することが求められるようになりました。ガイドラインの内容や変更となった背景に触れつつ今後企業に求められる当該観点での対応のポイントを解説します。
ガイドラインの変更
財務省は従前の「外為検査マニュアル」に代わるものとして2023年11月に「外国為替取引等取扱業者のための外為法令等の遵守に関するガイドライン」(以下、新外為ガイドライン)を公表し、2024年4月から施行されています。
当該ガイドラインは、国連安保理決議(千二百六十七号等)の内容を踏まえ外国為替取引等取扱業者に対して資産凍結措置者および対象となる国・地域に対する適切な対応の順守基準が創設・施行されることに伴い、当該基準のより具体的な考え方・解釈を周知・徹底するために再整備されたものです。
変更内容の多くは資産凍結対象の取り扱いに関するリスクの特定・評価・低減(いわゆるリスク・ベース・アプローチ)およびそれらを徹底するための内部管理の態勢整備に関したものです。
外国為替取引等取扱業者の大半は同時期に金融庁から公表されている「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」の適用対象であり、2024年3月末を目途に金融庁の当該ガイドラインへの順守を目指していたことから、結果として、新外為ガイドラインに対しても基本的にはほぼ遵守できている状況となっているため、金融庁ガイドラインへの対応を踏まえて過不足があるか否か、もしくは追加で求められていることはないかという観点で新外為ガイドラインを見ていくことになります。
一方で、事業法人についても新外為ガイドラインの変更を踏まえて外国為替取引業者の対応がさらに厳格になっていることを認識し、外国送金に係る取引先管理という側面から留意が必要です。
今回は、制裁対象者への取引に関する記述として新外為ガイドラインに以下の文言が盛り込まれていることに着目をしていきます。
特別国際金融取引勘定の経理等に関する事項
一部取引に係る支払等の規制が課されている特定の者等、告示により個別に指定されていないが、資産凍結等の措置の対象となる者等
①ロシア・ベラルーシの制裁対象者である団体により株式の総数等の50%以上を直接保有されている団体(本邦内に主たる事務所を有する団体を除く。
「外国為替取引等取扱業者のための外為法令等の遵守に関するガイドライン」抜粋
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/inspection/20240718_0.pdf
いわゆるOFAC等でいうところの「50%ルール」が今回新外為ガイドラインにおいてはロシア・ベラルーシの制裁対象者である団体に対して適用されています。
「50%ルール」とは?
制裁規制の一部として、特定の個人や団体が制裁対象に関与しているかどうかを判断するために使用される基準としてOFAC(米国財務省外国資産管理局)やEU等で用いられている指標です。制裁対象者が間接的に企業や団体を所有することで制裁を回避することを防ぐことを目的としたものです。
金融機関等においてはOFAC規制対応として馴染みのあるものであるが、今回の新外為ガイドラインを踏まえて、財務省(つまりは国連安保理決議に基づく)で指定されている資産凍結等経済制裁対象者の内、ロシア・ベラルーシの特定の制裁対象者に関しても同様の対応が求められることとなりました。
表1. 各国・地域による制裁対象者に関する50%ルールの概略
- 対象は資産凍結対象リストの内、ロシア・ベラルーシの制裁対象者によって所有されている団体
- 対象者によって50%以上の割合で保有されていることが条件
- 直接保有のみが対象
- 所有を問わない実質的な支配についての言及なし
- 対象はSDNリスト掲載者※によって所有されている団体
- 1人または複数の対象者によって合計50%以上の割合で保有されていることが条件
- 直接・関節保有問わず対象
- 50%ルール対象団体はSDNリスト掲載者と同視されるため当該団体が50%以上保有する団体も対象
- 所有を問わない実質的な支配についての言及なし
- 対象はEU制裁リスト掲載者によって所有されている団体
- 対象者によって50%以上の割合で保有されていることが条件
- 直接・関節保有問わず対象
- 所有を問わない実質的な支配についての言及なし
- 対象はUK制裁リスト掲載者によって所有されている団体
- 対象者によって50%以上の割合で保有されていることが条件
- 直接・関節保有問わず対象
- 所有を問わない実質的な支配についての言及なし
今回新外為ガイドラインで公表された50%ルールはOFAC・EU・UK等の50%ルールと比較して、①対象がロシア・ベラルーシの制裁対象者によって所有されている団体に限定されている点、②間接的保有については言及がなく直接保有に限られる点が大きな違いとなっています。
対応のポイント
50%ルールへの対応については、新外為ガイドラインのQAに以下のような記載がされています。
「外国為替取引等取扱業者のための外為法令等の遵守に関するガイドライン」抜粋
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000263328
※SDNリスト:Specialiy Designated Nationals and Blocked Persons Listの略称
米国の国防上重大な危険を及ぼす可能性がある対象者リスト
上記は、資産凍結等経済制裁対象者に対して従来通りの公的な対象リストに対するスクリーニング対応だけでは不十分であり、企業自身で50%ルールを考慮した対象の収集および付加的なリストの作成を行わなければいけないことを示しています。
対象の特定に対しては、取りえる手段としては新外為ガイドラインのQA(項番37)に記載のある通り、公知情報(会社のホームページや報道・政府発表)や取引先・顧客に対しての直接のヒアリング(株主構成等の情報提供)等が考えられるが、現実的には対応に多くのリソースが割かれることになるのに加え、収集作業が俗人的になるためリストの品質にばらつきが出て正しい実態把握ができない懸念も生じます。
そのため、収集においては外部のデータベースの活用するなどして一定のリスト品質の確保・収集作業の効率化を検討するのが有効的なアプローチに一つとして考えられます。
今回の新外為ガイドラインによって示された50%ルールは上記でまとめた通り欧米諸国の取り決めと比較すると対象も限定的かつシンプルなものになっています。今後の外部動向に依拠する側面は大きいが、いずれにせよ欧米諸国に合わせてさらに高度化されていくことが予想されます。そのため、制裁対象へのスクリーニングについては今回の新外為ガイドラインに即すことを目的とするのではなく、各国のガイドラインも合わせて注視しつつ将来的な高度化を見据えた対応に留意する必要があります。