日経リスク&コンプライアンス/コラム

米国制裁法や輸出規制に関する最新動向と
デューデリジェンスを実施する上での留意点

Release  2021.04
  • コラム・インタビュー
  • 経済安全保障規制
  • 第三者(取引先)管理

「米国制裁法・輸出規制の基礎と
日本企業のコンプライアンス体制」
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5Gや香港の自治などを巡る政治経済的な緊張に端を発した米中対立は、米国での政権交代後も引き続き日本企業にとって重大な懸案事項の一つとなっています。

特に米国の制裁法や輸出規制は、米国と対象国との取引だけでなく、日本と中国など第三国間の取引にも影響を与えており、米国と緊張関係にある国との取引を継続したい日本企業にとっては、米国規制を正しく理解した上で、コンプライアンス体制を構築していく必要があります。

専門家である西村あさひ法律事務所の中島和穂弁護士に、米国制裁法や輸出規制に関する最新動向やデューデリジェンスを実施する上での留意点について解説いただきました。

西村あさひ法律事務所
パートナー弁護士 中島 和穂

2001年東京大学法学部第1類卒業、2002年弁護士登録、2009年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2010年ニューヨーク州弁護士登録。2009-2010年ニューヨークのワイル・ゴッチャル&マンジズ法律事務所勤務、2016-2019年ドバイ駐在員事務所代表。M&A、国際取引、規制対応、訴訟・紛争を中心とする企業法務全般を支援している。事業再生局面での官民ファンドによるM&A、証券会社と証券取引所間の巨額の損害賠償紛争、日本で初めての買収防衛策の導入、世界に拠点を有する企業間の統合、地政学的なリスクを抱える中東への進出案件、M&Aの価格調整における巨額の仲裁案件等、様々な論点が複雑に絡む案件の経験が豊富。近時は、安全保障、技術覇権やテロ対策に関する国際社会の関心の高まりを踏まえて、非米国企業にとっての米国の経済制裁や輸出・再輸出規制、および、日本の輸出規制やマネーロンダリング規制に関する案件に多数関与している。

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士 中島和穂氏
01

トランプ政権からバイデン政権に代わっての最新の制裁・輸出規制に関する動向

中島さん: 注目される動向は、中国及びミャンマー関連です。

まず、中国については、トランプ政権が、5Gなどの情報通信技術の競争、中国政府の軍民融合方針、香港やウイグルにおける民主主義・人権を巡る問題が、米国の安全保障や外交政策の脅威となるとして、厳しい姿勢を取ってきましたが、バイデン政権も厳しい姿勢を継続しています。トランプ政権下では、大統領やその親しい幹部の意向を受け、数多くの制裁や輸出規制を発動し、それらに依拠しすぎたように思われますが、バイデン政権下では、閣僚や官僚によって慎重かつ用意周到に、制裁や輸出規制が活用されるものと思われます。直近では、スーパーコンピューターを開発する中国企業が、エンティティ・リストと呼ばれるリストに掲載され、これらの企業への米国原産品目の輸出が規制されました。

また、ミャンマーについては、本年2月、国軍が総選挙により民主的に選ばれた政権を受け入れず、民主的政権の指導者等を不当に拘束して政権を掌握したとして、バイデン政権は、ミャンマーの国軍関係者や軍関連企業に対して制裁措置や輸出規制措置を発動しました。

バイデン政権は、これらの国について、欧州や日本を含む同盟国にも同様の措置を講じるように求めていますので、米国の制裁や輸出規制の把握は、他国の今後の規制を予想する上でも有益です。

02

ミャンマー制裁が日本企業に与える影響

中島さん: 米国の制裁には、大きく分けて、①制裁対象となる国との取引が全て又は大部分が規制される国べースの制裁と、②制裁対象となる特定の企業・個人との取引が規制されるリストベースの制裁の二つがあります。

本年2月に発動されたミャンマー制裁は、②の類型であり、制裁対象となる企業や個人は、米国当局が管理するSDNリストに掲載されています。また、このリストに掲載されていない企業であっても、その企業を直接又は間接に50%以上保有する株主がSDNリストに掲載されている場合には、その企業は制裁対象となりますので注意が必要です。この50%以上の株式保有関係に基づく制裁措置は50%ルールと呼ばれています。このルールにより、取引当事者のみならず、その背後の株主までチェックしなければなりません。

米国当局は、本年2月の国軍による政権掌握以降、同月に制裁対象企業や個人をSDNリストに掲載しましたが、3月と4月にも複数の企業や個人を同リストに追加しました。国軍によるデモの弾圧等が続けば、さらに追加掲載の可能性もあります。

これらの制裁対象者に対して重要な支援をする取引をする者も、SDNリストに掲載され、制裁対象となる可能性があることに注意が必要です。仮に制裁対象となれば、米国内の資産凍結などの法令上の措置による影響のみならず、銀行との取引や国際的な取引が事実上困難となります。また、最終的にはSDNリストへの掲載に至らない場合であっても、米国政府は、同リストへの掲載可能性を示唆しつつ、制裁対象企業との取引を中止するように求める場合があります。制裁対象企業との取引は事業に重大な影響を与える可能性が十分にありますので、そのような事態とならないようコンプライアンス体制整備が重要となります。

03

米国による対中制裁の動向、特に新疆ウイグルに関連した制裁と日本企業の影響

中島さん: バイデン政権下の対中制裁は、トランプ政権下と同様に厳格なものとなることが予想されます。特に、新疆ウイグルに関しては、トランプ政権が、同地域における少数民族の人権問題を、国際法上のジェノサイドと呼びましたが、バイデン政権でもその見解を踏襲しました。

新疆ウイグル関連で米国政府が発動する現時点の措置は、大きく分けて、①輸出規制、②輸入規制、③資産凍結の3つです。

まず、輸出規制は、新疆ウイグルでの少数民族の監視機器や技術を製造開発する中国企業への米国原産品目の輸出、再輸出等を規制しています。この輸出規制の対象となる企業のリストは、エンティティリストと呼ばれています。輸出規制は、米国から中国への輸出のみならず、米国からある国(例えば、日本)に輸出された米国原産品目が他の品目に組み込まれ、更に中国に輸出される場合(いわゆる米国原産品目の再輸出)も規制の対象としています。そのため、日本企業による日本から中国への輸出も影響を受ける場合があります。

また、輸入規制は、新疆ウイグルでの強制労働により生産された商品の米国への輸入を規制しています。輸入規制は、米国に輸入される品目の中に、強制労働により生産された品目が含まれていれば、輸入規制の対象になりますので、米国に輸出する日本企業は、自らのみならず、原材料が強制労働によって製造されていないか否かという観点からサプライチェーンを検証する必要があります。

さらに、資産凍結措置は、新疆ウイグルでの少数民族の人権問題に関わったとされる中国企業や政府関係個人がSDNリストに掲載され、米国内の資産凍結措置が講じられています。資産凍結措置の対象となる企業や個人に対して重大な支援をする者もSDNリストに掲載される可能性がありますので、日本企業は、制裁対象となる企業や個人が取引関係者に含まれていないかを検証する必要があります。

04

日本企業が制裁や輸出規制に対応するために行うべきデューデリジェンスと留意点(DD対象先など)

中島さん: まず、制裁は、米国が自国の安全保障や外交政策上の脅威となる国や企業・個人を特定し、それらの者との取引を規制しようとするものですので、日本企業の皆様の取引がその規制対象か否かを検証する必要があります。具体的には、自らのサプライヤー、顧客、合弁相手などの取引関係者が、米国の制裁対象国に所在するか否かや、SDNリストに掲載されていないかを検証することになります。また、取引関係者のみならず、上述の50%ルールに基づき、その株主がSDNリストに掲載されていないかも検証する必要があります。

次に、輸出規制は、米国が自国の安全保障や外交政策上の脅威となる国や企業・個人に米国原産品を使用させないために、米国原産品の輸出や再輸出などを規制するものです。日本企業の皆様は、まず取引する品目に、①米国原産品目が含まれているか否かを確認し、含まれている場合には、②当該品目が米国当局が規制する需要者向けや用途ではないか否か(例えば、取引関係者がエンティティリストに掲載されていないか、軍事用途ではないか)や、③米国原産品目の機微度が高い品目(Commerce Control Listと呼ばれるリストに掲載されている品目)が含まれていないか、含まれている場合には、仕向国などの観点から当局の許可が必要な取引か否かを検証することになります。

また、制裁や輸出規制は、国際情勢や米国内の政治状況の変動に大きな影響を受けますし、突然変更されることがあります。そのため、取引開始の時点では規制されていなかったものの、その後の規制変更により、取引を中止しければならない場合もあります。規制変更の見落としがないように、その最新情報を収集する社内体制を構築することが重要となります。例えば、エンティティリストやSDNリストのような規制対象リストの最新情報を把握する体制も重要です。

さらに、取引手法や契約条件の検討も重要です。規制変更の場合の取引終了や変更の方法、それに伴って生じる損失を軽減する取引手法を事前に検討し、契約条項で定めることも重要となります。

この記事は2021年4月にインタビューした内容をもとに作成しています。

日経リスク&コンプライアンスでは、グローバルの経済制裁リストや世界各国の輸出規制リストだけでなく、OFAC50%ルール対象企業についても、取引先の名前を入力するだけで簡単に検索できます。

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