生産性向上とは
生産性向上はよく目にする用語ですが、改めて意味や混同しやすい用語との違いなどを解説します。
生産性の定義
生産性とは、時間や人材などの投下した資源に対して、どれだけの成果を生み出せたかを示す指標です。数式で表すと「生産性=成果÷投下した資源」となります。ビジネスで生産性を用いる際は、「労働生産性」を指すのが一般的です。具体的には、従業員1人あたりのコストに対して、どれだけの利益を生み出せたかを表します。
生産性向上の意味
生産性向上とは、インプットに対するアウトプットの比率を増やすことです。小さな投資で大きな成果を得ることとも言い換えられます。生産性向上は、通常、企業の業績に直接的な影響を与えます。そのため、多くの企業にとって生産性向上は急務です。
業務効率化との違い
業務効率化とは、無駄な作業や非効率な業務フローなどを改善することです。業務効率化はあくまで業務自体の改善であるため、生産性向上に結びつくとは限りません。しかし一般的には、業務効率化は生産性向上につながるため、業務効率化は生産性向上を目指す施策の1つといえます。
日本の生産性の現状
ここでは、日本の生産性の推移や諸外国と比べたときの生産性を解説します。
日本の生産性推移は横ばい
公益財団法人日本生産性本部「日本の労働生産性の動向2021」によると、就業者1時間あたりの付加価値額は、1995年~2021年において、7,894円~8,463円の範囲で横ばい状態となっています。
この状態が今後も続けば、日本の総合的な生産性も低下するでしょう。少子高齢化が進む日本では、労働人口が減少し続けるため、総合的な生産性が下がるのは明らかであるからです。
※参考:日本の労働生産性の動向2021:公益財団法人日本生産性本部"
国際的に生産性が低下している
2020年時点において日本の労働者1人あたりの生産性は、世界と比較して低下しています。日本のランキングはOECD加盟国38か国中28位でした。加盟国平均の100,799ドルに対して、日本は78,655ドルと大きく下回っている状況です。
この指標は、ビジネスにおける日本の国際的な競争力が弱まっていることを示唆しています。生産性を高めなければ、海外の安価な商品・サービスに負け、事業継続が難しくなる国内企業が増えるでしょう。
※参考:労働生産性の国際比較2021:公益財団法人日本生産性本部"
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生産性の種類
生産性は物的労働生産性と付加価値労働生産性の2種類に分けられます。それぞれについて解説します。
物的労働生産性
物的労働生産性とは、商品の生産数や生産量、販売金額など、目に見える物理的な成果で生産性を測定したものです。数式にすると、たとえば「物的労働生産性=生産数÷従業員数」や「物的労働生産性=生産量÷労働時間」のようになります。
付加価値労働生産性
付加価値労働生産性とは、従業員1人あたり、または労働時間あたりでどれだけの付加価値を生み出せたかを表す指標です。付加価値とは、売上から原材料費や外注費などの原価を引いた粗利です。したがって、計算式は「付加価値労働生産性= 付加価値÷労働量」となります。労働量は従業員数または労働時間です。
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生産性向上の考え方
生産性を向上させるにはインプットの削減か、アウトプットの増加のいずれかが必要です。
インプットの削減
生産性向上を実現する方法の1つがインプットの削減です。インプットとは、先に解説した「生産性=成果÷投下した資源」の数式で、投下した資源にあたる要素です。たとえば、業務効率化や工数削減を実現すれば人件費を減らせますし、仕入れや在庫管理を最適化すれば原材料費を節約できるでしょう。
アウトプットの増加
生産性向上を実現するもう1つの方法がアウトプットの増加です。「生産性=成果÷投下した資源」の成果を増やすことで、生産性が高まります。
アウトプット増加のための施策例としては、販売エリアを拡大したり、新商品・サービスを開発したりして売上を伸ばす施策が代表的です。また、ブランディングによって既存事業の付加価値を強化して、業績を伸ばす施策もあります。
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生産性向上による企業のメリット
生産性向上はそれ自体で明らかなメリットですが、他にも多くの効果を期待できる施策です。競争力強化や労働力不足の解消など、5つのメリットを解説します。
ビジネスにおける競争力強化
生産性向上を実現できれば、企業の競争力を強化できます。同じスペックの製品をリーズナブルな価格で提供したり、商品投入までの期間を短縮して優位性を確保したりできるからです。近年はビジネスのグローバル化が進んでいるため、国内市場だけでなく海外市場での競争力も高めることが重要になっています。
労働力不足の解消
生産性向上は労働力不足の解消にもつながります。従業員1人あたりの成果を増やせれば、少ない人数でも業務が回るようになるからです。このメリットは労働力の減少が進み、慢性的な人材不足に悩む企業において特に重要です。生産性向上によって人的リソースを最大限活用できれば、事業の継続、拡大が可能となります。
コストの削減
生産性向上はコストの削減に役立ちます。たとえば、同じ業務量を人数でこなせるために、人件費、工数をカットできます。また、製造業では同じ原材料でもより多くの製品を得られる場合もあるでしょう。削減した分のコストは別の事業に回せます。設備導入や労働環境の改善などに役立てれば、さらなる生産性向上につなげられるでしょう。
労働環境が整う
生産性向上を達成できると、労働環境が整う場合があります。たとえば、残業時間が減ったことで、ワークライフバランス(仕事と生活のバランス)が整うようなケースです。
近年は給与や待遇ではなく、プライベートを大事にできる環境や、ストレスが少ない環境を求める人が増えています。働きやすい環境が整えば、採用活動や離職率低下にも好ましい影響を期待できるでしょう。
働き方改革の推進
2019年から国をあげて推進されている働き方改革の3本柱は「長時間労の是正」「多様で柔軟な働き方の実現」「正規・非正規間の格差解消」です。
生産性向上によって経営と労働状況に余裕が生まれると、上記の課題にも取り組みやすくなるでしょう。生産性向上というと利潤追求のイメージがありますが、従業員にとって働きやすい環境を推進する目的とも連動できる施策です。
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生産性向上によるデメリット
生産性向上によるデメリットは基本的にはありません。しかし、生産性向上のために誤った施策を実施すると、結果として生産性が下がるリスクがあります。
たとえば、生産性向上のために投下する資金を下げようとして、無理なコストカットを実施したとしましょう。この場合、一時的に生産性が上がったとしても、従業員のモチベーション低下によって商品の質が下がり、売上の減少につながるリスクがあります。
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生産性向上に取り組むポイント
ここでは生産性向上に取り組む際のポイントを解説します。
業務の自動化・標準化
生産性向上に取り組むポイントの1つが業務の自動化です。デジタルツールの導入によって、人がしていた業務をコンピューター、プログラムに代替させれば、業務時間を削減できます。
また、デジタルツールによって業務が標準化するため、品質の安定化も実現できるでしょう。提供する商品・サービスの品質が安定すると、点検業務を省いたり人的ミスを減らしたりして生産性向上を図れます。
アウトソーシングの導入
アウトソーシングの導入でも生産性向上を図れます。一般的には、本業に付随する定型業務を外部の専門機関に任せるのが効果的です。たとえば、営業部署で行っていたDM発送業務をアウトソーシングすれば、営業担当が業務に集中できるため、本来のパフォーマンスを発揮しやすくなり、生産性向上を期待できるでしょう。
職場環境の改善
職場環境を改善すると従業員が能力をより発揮しやすくなり、生産性向上が期待できます。どの職場環境を改善すれば効果が出るかは、企業によって異なります。
たとえば、非正規社員の待遇改善によってモチベーションが高まり、生産性が高まるケースがあるでしょう。また、評価制度の公平化によって女性活躍を推進し、生産性を高めた企業もあります。近年では、テレワーク導入による業務効率化も代表的な施策です。
従業員のエンゲージメント強化
エンゲージメントとは、従業員が企業に対して抱く愛社精神や貢献意識などで、生産性と相関関係があります。というのも、エンゲージメントの高い従業員ほど業務の質が高まり、顧客満足度を向上させやすいからです。エンゲージメントの向上は、給与アップや福利厚生の充実など、表面的な施策だけでは困難です。従業員のニーズを的確につかむ必要があります。
生産性の可視化
生産性は最終的な結果であり、何が影響しているのか見えにくい部分があります。このため、自社の現状を正確に把握できていない企業も少なくありません。生産性を可視化すれば課題発見しやすく、具体的な施策を検討できます。仮に製造業であれば、工場内の基幹システムや製造実行システムを連携し、生産状況を可視化すれば的確な対策を実施できるでしょう。
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生産性向上に取り組む際の注意点
生産性向上に取り組む際に陥りやすいのが、従業員の負担増を前提にしてしまうことです。たとえば、短納期を実現するために長時間労働を強いる施策があります。また、マネジメント業務で忙しい従業員に対して、プレイングマネージャーを任せるような施策も同様です。
こうした高負荷、マルチタスクの業務は、かえって生産性が低下することが知られています。長期継続的に生産性を高められる施策なのか、よく検討しておきましょう。
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まとめ
生産性向上は多くの企業において重要課題です。労働人口の減少や、国際競争力の低下などの厳しい状況におかれている日本企業にとっては、より切迫した課題といえるでしょう。まずは自社を取り巻く状況の的確な情報分析から実施することが重要です。
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