カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出を、実質ゼロにすることです。2015年にパリ協定で採択され、世界共通の目標として掲げられました。実質ゼロとは、人間が排出した二酸化炭素と、植物が吸収した二酸化炭素が、プラスマイナスゼロになる状態です。

現在は、120か国以上が「2050年カーボンニュートラル」を目標とし、日本政府もカーボンニュートラルの実現を目指しています。日本は、欧州諸国と比較すると出遅れているため、カーボンニュートラル導入が企業に求められています。

DXとは

DXとは、「デジタルトランスフォーメーション」の略語で、IT技術を駆使して会社変革をしていくことを意味します。ITを活用して企業の価値観や枠組みを根本から変え、新たな価値を生み出す考え方です。

DXの本質は、「実社会に存在しない新しいサービス」にあり、政府や多くの企業が目指すべき目標として掲げています。DXが進めば、ビジネスの多様化が図られ、古いシステムからの脱却が期待できます。

カーボンニュートラルとDXの関係

カーボンニュートラルは、環境問題に配慮しながら持続可能な成長を目指します。DXは、データやデジタル技術などを活用し、企業の優位性を構築します。カーボンニュートラルとDXのそれぞれの最終的な目標は異なりますが、デジタルによる変容を実現する方向性に相違はありません。

温室効果ガスの排出を減らすには、二酸化炭素の排出量の把握が重要であり、そのためにはIoT技術が必要です。IoT技術は、家電製品や自動車など「モノ」をインターネットとつなぐ技術を指します。企業は、IoT技術を駆使した、DX推進の対応が求められています。

DXによるカーボンニュートラルを推進するための具体例

DXとカーボンニュートラルには密接な関係性があります。DXによるカーボンニュートラルを推進するための具体例を解説します。

テレワーク

2020年の国勢調査によると、自家用車で通勤している人の割合は約48.13％です。テレワークの導入は、交通手段に要するエネルギー削減につながります。また、オフィス勤務を縮小することで、オフィスの電力使用量を抑えられます。

※参考：国勢調査 令和２年国勢調査 従業地・通学地による人口・就業状態等集計｜e-Stat　政府統計の総合窓口

AIによる需要予測

AIによる仕入と生産の最適化により、製品の無駄を軽減できます。コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの廃棄ロス問題や、コスト増加の解消が見込まれます。過剰な在庫を削減することは、カーボンニュートラル推進の1つといえるでしょう。

電力の最適化

カーボンニュートラルは、電力や熱、交通などの再生可能エネルギーの供給を安定化できます。複数の拠点間で電力を融通できれば、拠点単位で脱炭素化が可能です。

運送・配送ルートの効率化

DXにより運送や配送ルートの最適化を図ることで、車両からの温室効果ガス排出量を削減できます。トラックの運転時間を減少させるだけではなく、無駄な運行本数の適正化につながります。

ペーパーレス化

紙の原料は木材であり、焼却破棄の際は温室効果ガスが発生します。たとえば、1本の木から約1万枚の紙が作成でき、これを焼却することで排出される二酸化炭素は約13.6kgです。企業での紙資源削減が、森林破壊だけではなく温室効果ガス削減にも影響します。

カーボンニュートラルとDXを推進できている企業とは

カーボンニュートラルとDXの関係性を理解しても、どのような取り組みをすべきなのか、イメージできない人もいるでしょう。国内企業のうち、約9割が「DX未着」「DX開発途上」に留まっているといわれています。カーボンニュートラルとDXの成功例とともに、DXを推進してきている状態を解説します。

メーカーでの成功例

メーカーにおける成功事例を解説します。カーボンニュートラルとDXを掛け合わせるイメージを膨らませるためにも、ぜひ参考にしてください。

自動車メーカー

自動車メーカーAは、高速集計データベースとBIツールを組み合わせ、製造現場の活動データを一元化しました。温室効果ガス排出量の見える化の実現により、鍛造（たんぞう）用コンプレッサーの稼働時間の最適化につながっています。

電子部品メーカー

電子部品メーカーBは、AIやデジタルツインを活用したことで、電力供給バランスの予測と管理の高精度化の関連性を見出しました。コンピュータ上に仮想工場を再現し、省電力対策の効果と生産性、製品品質を検証できる仕組みの構築に成功しています。

医療用装具製造メーカー

医療用装具製造メーカーCは、人工肛門保有者の負担軽減を目指し、自社製品と連携した健康管理アプリを開発しました。専門家と連携することで、医療器具の使用に関する規則を確立し、患者の生活改善に貢献しています。

食品・飲食業での成功例

食品・飲食業での成功例を解説します。

飲料・食品製造会社

飲料・食品製造会社Dは、テイストやパッケージを自由にカスタマイズできるサービスを展開しています。キーメッセージを含むデザインコンセプトや、QRコードを駆使した自動ラベル印刷を構築しました。

ビールメーカー

ビールメーカーEは、ステークホルダーのインタビューを実施し、新たな発注プラットフォームアプリを開発しています。米国市場向けにリリースされたアプリは、グローバル市場への展開につながっています。

金融・保険業での成功例

金融・保険業での成功例を解説します。

地方銀行

地方銀行Fは、顧客向けに独自のキャッシュレス決済サービスを開発しました。DX人材育成や次世代の働き方に必要なスキルを獲得することに成功し、機能改善を進めながら、地域の人に寄り添う取り組みを行っています。

保険会社

保険会社Gは、保険商品を魅力的に提案するモバイルアプリを提供しています。コーヒーを購入するごとに、自動的に傷害保険に一定額支払えるシステムです。保険への関心が低い層へのアピールに貢献したといえるでしょう。

そのほかの業界での成功例

美容や自治体といった業界の成功例を解説します。

美容業界

化粧品会社Hは、シワを認識する肌解析システムの開発に成功しました。システムにはAI画像認識の技術が採用され、シワの本数と評価が数字でわかります。蓄積されたデータに基づいて、背景や光量などの影響による制度の揺らぎの改善も行っています。

自治体

自治体Iは、自治体DXの実現を前提に、市民目線をもちながら業務改革を行う思考を習慣化させる研修を行いました。インプットとアウトプットを交互に実施するカリキュラムを採用することで、デザイン思考の実用的な手段として定着させました。

DXによるカーボンニュートラルを取り組むための課題

これからの時代は、DXに一層力を入れて取り組むことが重要であり、効率的な温室効果ガスの排出削減が求められています。日本は、DX推進において諸外国に比べると遅れているといえるでしょう。たとえば、日本のグリーンイノベーション基金は2兆円ですが、欧米は日本の約100倍もの予算計画が立てられています。

カーボンニュートラルはコストがかかりますが、企業が成長を目指すという思考の移行がポイントです。古い固定概念に捉われず、新しい価値観を企業として共有する必要があります。DXを活用するために、IT技術者だけではなく、経営や企画などの能力を備えた人材育成も必要不可欠といえるでしょう。

まとめ

カーボンニュートラルへの取り組みは、企業経営において重要視されています。今後は、DXと連携し、温室効果ガス排出量の削減を効率的に行うことが望まれます。テレワークやAIによる需要予測など、新しい価値観を導入するほか、DX人材の育成にも重点を置きましょう。

NIKKEI The KNOWLEDGEは、信頼性の高い情報を収集し共有できる、ナレッジマネジメントツールです。日経が厳選した多数の情報ソースを扱っており、企画や提案力の強化が望めます。カーボンニュートラルの取り組みを考えているご担当者は、ぜひご活用ください。